トップスター2人

12 27, 2010
10年ぐらい前に友人の新居を訪れた際、初めて換気扇みたいな壁掛けのCDプレイヤーを見た。そのCDが回り始めて音が流れ出す感じが、換気扇を回して風が動き出すイメージを見事に思い出させ、部屋の空気を音で洗浄しているようで、音質がどうのこうのという高価なスピーカーとは異なる音の演出に、新しいデザインとはこういうことかと思った。ただ、その作品が深澤直人のものと知ったのは随分後のことだ。

「デザインの輪郭」深澤直人(TOTO出版)
「芸術闘争論」村上隆(幻冬舎)
この2人の文章を比較することに意味があるのかどうか微妙だが、ちょうど連続して読んだこともあって、その対照的な言葉の数々が、デザインとアートの曖昧さを象徴しているようで面白かった。プロダクトデザインを極める深澤直人の言葉には、アート的な雰囲気が漂う一方、批判が絶えない芸術家村上隆の言葉は、ビジネスノウハウの伝授と言っていいものだった。デザインとアートをどう捉えるかが、考え方によって全く異なる姿を見せるゆえんだろう。村上隆のデザイン論、深澤直人の芸術論となっていた方がしっくりくるかもしれない。それぞれが自身の制作に対する思いをぶつけているのだが、深澤直人の詩的なアプローチに対し、村上隆のそれは「ルール」に基づく緻密な機械的作業である。どちらがいいという問題以前に、あまりのチャンネルの違いに驚くしかない。(以前、村上隆と佐藤可士和が対談していたが、その組み合わせは理解できた)

ただ、完成されたそれぞれの仕事を見た時、僕は明らかに深澤直人のデザインには感動するが、村上隆のアートにそういう感情を持ったことはない。深澤作品の見事だなと思わせる理由のひとつは、その実物を見なくてもその作品の外観を語られただけで、勝手に想像が膨らんでしまうところだ。「厚さ6mmの人工大理石の本棚は、薄い素材で安定した構造を成すためにX字の筋交いを入れたが、それが本を無造作に立てかけた時の傾きと重なり、、。」僕などは、もうこの言葉だけで、その本棚が際立つ様が脳裏に浮かび、美しいだろうなあと素直に思う。そして実物の普通さがいい。過剰なデザインが多い中、その何もしていないように見えるさりげなさは、ありがたく思う人が多いのではないだろうか。
対して、村上隆の言葉に想像の余地はない。極端な例をあげると「絵を作るには、1.構図、2.圧力、3.コンテクスト、4.個性の四つの要素があります」とか「西欧における現代美術のコンテクストは、1.自画像、2.エロス、3.死、4.フォーマリズム、5.時事、この五つをシャッフルするのが好まれます」等がある。もちろんこれは、芸術の難解な部分を解剖するがゆえの説明なのだろう。本には作品が仕上がっていく過程が、丁寧に写真付きで提示されておりその苦労が偲ばれるが、それが僕の場合感動には繋がらない。逆にそういう方程式に合わせて、システマティックな制作スタイルを確立したことの方に注目してしまう。好みが分かれるところだ。

そんな2人が同じように語るテーマがひとつあり、それは教育の重要さだった。
2人とも社員には容赦なく厳しそうだ。特に美大生が口にする理屈には相当嫌悪感があるようで「自由を勘違いしている人が多い」という意見はそっくりだった。2人とも次の世代を育てるべく苦労しているのだろう。なんとかして妙な空気を正そうとしている姿は尊敬に値するし、その授業は聞くべき価値があるように思え、その半端でない両者の生き様には恐れ入る。

平野啓一郎の「身体と出現」というエッセーの中でデザインとアートの区別を、彼は宇宙人を通して論じている。人間を全く知らないエイリアンが、人類亡き跡に残された様々なデザインを見て、これを情報としてパズルのように組み合わせ、これらを使用していた生物の形を想像する時、そこに浮かぶ姿は、だいたい人間と同じ様相になるのではないだろうか。と彼は推測する。優れたデザインは、人体と呼応する形態を持つからだろう。そして次のようにまとめている。「その時、明らかに人工物であって唯一、彼の人間という概念を混乱させるものがあるとするならば、それこそは芸術である。その形は、決して彼の思い描く人間の生活の日常には収まりきれず、また人間の身体を合理的にその生活へと結びつけるものではないだろう。芸術は彼に、人間の身体の輪郭を結びきってしまわせない何かであり、人間の生活とその外側との風通しのよい開口部である。創造された新しい身体の一挙種一投足が、空間を描き出し、世界を招き寄せる。」
これが「人間の輪郭とデザインの輪郭は同じだ」という深澤直人の発言ときれいに対をなしていて興味深い。
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