中学生
09 16, 2010
過去を振り返ると、つらかったとしか思えない時代がある。僕の場合それは中学生の頃だ。自分がどういう人間なのか、何に可能性があるのかわからず、人から嫌われることを恐れ一生懸命笑顔を作っていた。実に痛ましい。今思えばよく毎日学校へ通っていたなあと思う。
「鈴木先生」武富健治(双葉社)
漫画だ。しかしコマのほとんどが長いセリフで埋め尽くされ、理屈でこねられたその言い回しに慣れるのに時間がかかる。絵もタッチがうるさく、どのページもすっきりした印象からは遠く、ごちゃついている。話の展開も、心理描写と独り言が延々続くため全く進まない。(著者はドストエフスキーが好きらしい)
物語は、鈴木という中学校教師を中心にした学園ドラマで、教育現場で起る問題を、彼が病的なまでに掘り下げ、生徒達それぞれが、納得できるような着地点を模索していくという話だ。エピソードも生々しく緊張感に溢れており、生徒も先生も次々切れて狂っていく。人物が崩壊していく過程も懸命に描写されているので、ページによってはサスペンスを越えてホラーでしかない。
思春期の問題をいちいち拾い、出口がどこにあるのか探る過程を、生徒のセリフに託すことになるので、登場人物は実によくしゃべる。しかも、そのひとつひとつは哲学者顔負けの長文で、理屈が通ったそれぞれの視点を表現しており、皆頭がいい。ただそんな中学生はあんまり見たことが無い。
個々人の思いを伝える表情は過剰で、そんなに人の顔は変形しないよと思うのだが、確かに笑える。でも中学生の心理としては、メーターが振り切れてしまい怒りでわななくこともあったはずで、楳図かずお的なしわだらけの形相に象徴される、中学生の必死な気持ちもわからないではない。
完全なフィクションだし、文化祭や生徒会選挙をこんなに丁寧にやる学校があるとはあまり思えないが、義務教育のラストステージとして、本人の意志関係なく通学を強制されたあの時期を利用して、人生のエグさを抽出する作者の意図は共感できる。
生徒達を前にした鈴木先生の姿は神々しく、随所になるほどと思わせる考え方なり指導を提示しており、こんな先生と出会っていたら自分はどうなったかと想像するのは面白い。また先生や生徒達の勝手な妄想シーンも、ヤバイ部分はあるものの、素朴な人間らしい弱さを象徴していていじらしい。ひとり完璧なキャラクターとして、巫女のような優秀な女生徒がいる。彼女だけが切れることなく(泣いたことはあった)登場人物達の座標的な基準として君臨しており、今後の展開でどう変化するのか気になるところだ。
誰に何かを言われたとか、誰が何をしたとか、今となっては心からどうでもいいようなことが、切実な心配事へと繋がっていた当時を思い出す。自分が歳をとっていく事実は避けがたいしどうにもならないが、あの頃に比べれば相当マシな毎日で、ありがたいことだ。
鈴木先生のように鮮やかに問題を解決してくれる人はなかなかいない、しかし時間が大抵の問題を解決してくれたことも事実なのだ。現在中学生で、苦しみの中で学校へ通う人がいるとしたら、なんとか卒業まで耐えられますように、と強く思う。
「鈴木先生」武富健治(双葉社)
漫画だ。しかしコマのほとんどが長いセリフで埋め尽くされ、理屈でこねられたその言い回しに慣れるのに時間がかかる。絵もタッチがうるさく、どのページもすっきりした印象からは遠く、ごちゃついている。話の展開も、心理描写と独り言が延々続くため全く進まない。(著者はドストエフスキーが好きらしい)
物語は、鈴木という中学校教師を中心にした学園ドラマで、教育現場で起る問題を、彼が病的なまでに掘り下げ、生徒達それぞれが、納得できるような着地点を模索していくという話だ。エピソードも生々しく緊張感に溢れており、生徒も先生も次々切れて狂っていく。人物が崩壊していく過程も懸命に描写されているので、ページによってはサスペンスを越えてホラーでしかない。
思春期の問題をいちいち拾い、出口がどこにあるのか探る過程を、生徒のセリフに託すことになるので、登場人物は実によくしゃべる。しかも、そのひとつひとつは哲学者顔負けの長文で、理屈が通ったそれぞれの視点を表現しており、皆頭がいい。ただそんな中学生はあんまり見たことが無い。
個々人の思いを伝える表情は過剰で、そんなに人の顔は変形しないよと思うのだが、確かに笑える。でも中学生の心理としては、メーターが振り切れてしまい怒りでわななくこともあったはずで、楳図かずお的なしわだらけの形相に象徴される、中学生の必死な気持ちもわからないではない。
完全なフィクションだし、文化祭や生徒会選挙をこんなに丁寧にやる学校があるとはあまり思えないが、義務教育のラストステージとして、本人の意志関係なく通学を強制されたあの時期を利用して、人生のエグさを抽出する作者の意図は共感できる。
生徒達を前にした鈴木先生の姿は神々しく、随所になるほどと思わせる考え方なり指導を提示しており、こんな先生と出会っていたら自分はどうなったかと想像するのは面白い。また先生や生徒達の勝手な妄想シーンも、ヤバイ部分はあるものの、素朴な人間らしい弱さを象徴していていじらしい。ひとり完璧なキャラクターとして、巫女のような優秀な女生徒がいる。彼女だけが切れることなく(泣いたことはあった)登場人物達の座標的な基準として君臨しており、今後の展開でどう変化するのか気になるところだ。
誰に何かを言われたとか、誰が何をしたとか、今となっては心からどうでもいいようなことが、切実な心配事へと繋がっていた当時を思い出す。自分が歳をとっていく事実は避けがたいしどうにもならないが、あの頃に比べれば相当マシな毎日で、ありがたいことだ。
鈴木先生のように鮮やかに問題を解決してくれる人はなかなかいない、しかし時間が大抵の問題を解決してくれたことも事実なのだ。現在中学生で、苦しみの中で学校へ通う人がいるとしたら、なんとか卒業まで耐えられますように、と強く思う。