部屋の鮮度

08 12, 2010
母の頭髪が完全に白髪で覆われていた。以前から、染めるのはやめます宣言を聞いていたが、その変化には瞠目した。腕もだいぶ細くなった気がする。ただ表情は明るく、久しぶりに会う孫に目を細めていたし、食欲も増したようで、しばらく口にできなかった肉も食べていた。また、予想通り冷房は使用されず扇風機が回っていて、小さいタイプがベッドにも取り付けられており、頑固さの劣化は見られなかった。感心したのは家が清潔に保たれていることと、新しい野菜の栽培を始めていたことだった。

何かを諦めた人の兆候は、一概には言えないが、部屋の変化に現れるように思う。そこに美醜は関係ない、散らかっていてもいい。動き回る家主に合わせて物が入れ替わり、散らかりつつも空気が動いている健康さがあれば問題はない。想像だが社会と決別した部屋の空気は、鮮度が無い気がする。さらに確証できないが、それは即断できると思う。家主の実態を部屋はある程度反映するもので、そこに生きる意志がある部屋と、そうでない部屋があるということだ。母が1人で暮らす実家の空気は、まだ活力があった。
1人暮らしをしていた当時、季節の変化に合わせ両親が部屋に来た。せっかちな父親のペースだったので、ほんの1時間もしないうちに帰ってしまうのだが、要は部屋の雰囲気を見たかったのだと思う。話をしたところで、共感できる部分とそうでない部分を確認するだけで、譲歩する気もないなか、親として最低限できることを続けてくれたのだろう。やばい事件も多く、息子の年齢は容疑者達とも近い。さらに深夜から明け方にかけて繰り返されるアートと称する撮影行為を止められず、親としては緊張感があったのかもしれない。   

帰省ついでに火災報知器を取り付けたのだが、父親の工具箱からキリやドライバーを借りた。これが自分の原点で、それぞれの道具の嫌な部分を考慮し、自分の工具を揃えたのだった。
展示に際し、多くの人が釘を使用するなか僕はネジ派なのだが、それは父の「ネジの方が釘よりしっかり固定できる」という「教え」に今でもただ従っているだけで、その真偽は確かめていないしその気もない、今後釘に変更することもないだろう、なぜか安心なのだ。そういえばそういう「教え」がいくつかある。

父に似て僕もせっかちなのだろう、長居せずに実家を出る。ただこれからは3ヶ月に1度くらい、空気の鮮度を確かめに来ようと思った。たぶん1時間くらいで帰るのだろうけれど。
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