目を奪う力とは

12 26, 2013
先週末にヨドバシカメラの家電コーナーでTVを見た時、もうこんな凄い時代になっていたのかと思った。家にあるのが実に古い小さなTVなのでその落差は激しく、その大きさといい解像度といいシャープさ明るさ、そして3D。どれをとってもダメダメ状態であるウチのTVが哀れだった。映っていたのはアベンジャーズだったが、以前ウチで観たものとは全く違う印象を受けた。まず役者の顔が大きく鮮明なので、なんだか恥ずかしかった。また、なにゆえ破壊シーンが多かったのかが理解できた。こういう画面で見ると確かに効果的だろう。こんなTVが自宅にあったら、ずっとDVDを呆然と見続けてしまうかもしれない。さらに思った。TVにここまでの品質が必要なのだろうか。市場が求める過剰さが、ここにも極端な形で露呈しているのではなかろうか。
ウチのTVはほぼ娘しか使っていない。そこにはアニメや教育番組が映される程度なので、ウチではTVに対し何の支障もストレスもない。しかし、ああいうTVを知ってしまうと、物足りなさを感じなくもない。横で娘が、顔に対して大き過ぎる3D用の眼鏡をかけて、呆然と巨大なTV画面に引き込まれていた。きっといつも自分が見ているTVとの落差に愕然としているのだろう。もしかすると同じ名前を持つ機械と認識出来ていないかもしれない。冬のオリンピックでまたTVが売れるのだろうか。2020年には一体どんなTVが市場を席巻しているのだろう。本当は、こんな内容を書くつもりではなかったが、TVで書き始めたら、こんなことになってしまった。

「明るい部屋」高谷史郎(東京都写真美術館)
写真をやっている人からすると、このタイトルは畏敬の念が強過ぎて、なかなかつけられるものではない。しかしこの展示を観る限り、決してこのタイトルは大仰ではなく、初めて「明るい部屋」を読んだ時のような興奮を僕に与えてくれた。観る喜びとはこういうことだと思った。アベンジャーズも確かに凄いが、凄いものを凄くみせるのではなく、何気ないものがいかに凄いものであるかを、気づかせつつ見せる方が、僕は凄いと思う。作品を通して自分の眼の節穴度合いを実感し、作者の鋭敏な感覚と目が共振する体験は、そうあるものではない。最新のTVに映されていたハリウッド映画は、確かに目を奪う力に溢れていた。しかしそれは表面的で過度な視覚体験と言ってしまえばそれまでだ。(正直、グルスキーにも同じ感想を持った)刺激に慣れた目は、さらに過剰な刺激にしか反応できなくなる。僕が巨大なTVを見て少しひいてしまったのは、自分自身がどんどんそのTVにのまれて、視点が固定されることを恐れたからかもしれない。そうではなく、視点を解放するような作品を観たいと思う。私達が生きている日常の世界は、もっとささやかで繊細なものだ。巨大画面の爆発シーンのスペクタクルに目を慣れさせ、日常のそこかしこに潜む美しさを感知できなかったとしたら、それはカメラよりよほど高機能である目を退化させてしまうかもしれない。高谷氏の作品は「雲」「空」「植物」といったものが素材だったが、そのひとつひとつが、実に初めて見たかと思うほど、新鮮な姿をしていた。1日の雲の流れを魚眼レンズで撮影した作品「Chrono」は、まるで地球を取り巻く雲の球面上の動きが、再現されたようで、3D処理されていなくても、柔らかな立体感に満ちていた。また、自然の静止画と動画を同じ解像度(なんと7,000×30,000ピクセル)で撮影した作品「Toposcan」の細やかでダイナミックな映像変化は、自然の構造を、色彩の分解と再構成に還元する、魅惑的な視覚体験だった。他にもフロストアクリルフレームを使用した作品の柔和な写真作品など、定型化した写真展の在り方を完全に覆していたと思う。同じく2階で行なわれている「路上から世界を変えていく」が、その定型化した写真展そのものだったので、高谷氏の展示の価値がより明確になったのではなかろうか。

どことなく板橋の作品を作り終わった段階で、身体が一休みしていたが、ぼんやりしている場合ではないと思え、次の作品に向かうテンションが上がってきた。外の冷たい空気が気持ちよかった。そして、雲や植物がより鮮明に見えるようで嬉しかった。来月26日まで。
chrono.jpg
toposcan.jpg
画像:http://www.cinra.net/interview/2013/12/11/000000.php?page=2
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