華美な行列

08 03, 2012
いつも利用する駅のそばに、そこそこ有名なお嬢様系の女子大があって、そこの通学路を通らないことには駅につかない。そしていつも凄いなあと思いつつ通り過ぎている。その学生さん達の華美な服装は、猛暑でも土砂降りでも極寒でも変わらない。いわゆる流行を意識した彼女達の最先端ファッションがそこにある。もっと楽な格好とかすればいいのにと思うが、それはきっと許されないのだ。明らかに似合っていないと思われる人でも、一生懸命雑誌の表紙のような服を着てバッチバチに化粧をしておられる。たぶん女性同士の視線が厳しいのだろう。だらしない男がそこに紛れ込んでいれば、ある程度バランスがとれるのかもしれないが、隙のない女性達の中では、お互いの審美眼が磨かれる一方なのかもしれない。そしてそれは、それを望んでいる人にとっては楽しい競技なのかもしれないが、それを望まずシンプルに勉強したいと思っている学生からすると、非常に厳しい境遇だろう。もちろん意志ある人は好きな格好をしているのだろうが、時間帯のせいなのか見たところみんな義務のようだ。

「冥土めぐり」鹿島田真希(河出書房新社)
ご存知の通り今回の芥川賞受賞作である。あまりそれだけで手に取ることはないが、書店のポップに「~女子大卒業の作者」とあってそれが、普段凄いと思っている華美な行列を作っているあの女子大だった。内容も、贅沢に慣れた母と弟に翻弄される女性の~とあり、実にあの女子大出身者に合致しているように思われ、興味を持った。

以前どこかで目にしたのだが、人間は「誰に何をしてもらったか」ではなく「誰に何をしてあげたか」が重要だ、というのがあって、本書にはこの「何をしてもらったか」で、自分の幸せを評価することに取り付かれた母親と弟が出てくる。もちろんこの2人は働かない。父親が死に贅沢が許された過去の金銭感覚で現実を過ごし、遺産を食いつぶし借金まみれになったあげく、堅実に働く主人公のお金を搾取し続ける。自分が何者であるかを、身の丈を越える消費によってしか確認できない。あまりにも極端な描写が続くので、この作者は「贅沢」を生理的に嫌悪しているのではないかと思えた。勝手な想像になるが、著者はあの女子大に通うにあたり、したくない格好をして無理を重ねていたのかもしれない。もしくはそういう友人を見てきたか。
以前知人にお金持ちがいるという後輩の話を聞いたことがある。「父親と同等かそれ以上の収入がない男は認めない」とか「就職祝いが500万のBMW」とか「家具は高級家具メーカーにコンペをさせて購入する」とか、確かにどれも自分とは遠い世界であった。不思議なのはその知人さんが、どれも自分の収入ではなく境遇によってその生活が可能なわけで、社会人となった今も変わらずその生活が維持できると思っているところだ。まあそれは人それぞれだが、本書の主人公は、その壊れた家族に苦しめられ続ける。

僕は高級ホテルとか一流レストランという場所が苦手だ。それは明らかに僕よりも生活レベルが高そうな方々にサービスされることの違和感にある。もちろんこれはそういう世界に慣れていない卑屈な考え方なのだが、そういう場所で仕事の打ち合わせをしたりする時、ここは僕のいる場所ではないなといつも思う。その高級感がそのまま圧迫感に繋がるのだろう、リラックスが反転して緊張感が高まるだけだ。しかし、本書の母親と弟は、こういう場所で文句を言える自分は特別な存在だ、と終止勘違いを続ける。そういう意味では、主人公の持つ生活意識に僕は共感していた。

別に華美な格好が贅沢とは思わない。上手なお金の使い方でやりくりしている人が多いとも思う。僕がその〜女子大ファッションに違和感を覚えるのは、その示し合わせた様な統一感にある。これは僕が美大出だからかもしれない。あの空間はオシャレという言葉が完全に脱却しており、皆一様に自分の好きな格好(機能的なのかメッセージ性を重視したのか等)つまりはそれなりのコンセプトがあった。特に女性達のファッションは見事にバラバラだった。
女子大という世界を僕は知らないし今後研究するつもりもないけれど、本書を読むと、ある空間で抑圧された意識が出口を探すべく苦しんでいた様子を想像せずにはいられない。自分の世界はここではない、ここを出て行かねばならない、しかしここではそういう素振りを見せてはいけない、という軽い諦めを華美な行列を見るたびに思う。空間が作る無意識に翻弄されることは、ある意味楽なのかもしれないが、そこに個人としての判断は存在しない。でも大学とは個人の判断を磨くべく存在する場所なのではなかろうか。
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