美意識

11 09, 2011
世界に評価されるのではなく、世界で機能するという主体性を持つ。という箇所を読んだ時、なるほどと思った。スポーツにしろ芸術にしろ日本人は、世界に評価された人をありがたがる傾向があるが、それは始めから、日本が西洋より劣っていることを自ら認めてしまったわけで、確かに主体性がない。さらに経済はその西洋思考で進んで来た結果、どうやら行き詰まってきた感じもある。逆に今こそ東洋の端にある密やかな文化が、世界に役立てる場所があるのではないか、そこで「日本」を機能させることができれば、世界はもっと進化できるのではないか、という主張はとても理解できた。

「日本のデザイン」原 研哉(岩波新書)
日本のデザイン史の話ではない。飛行場の掃除が行き届いているとか、消えている電灯がどこにもないといった「そんなことが」というレベルの日本の美意識は、世界を見て来た著者にとって、かけがえのない個性として輝きを放っているようで、その意識の高さを世界に広めるべく奔走する話である。著者は様々な展覧会を企画し、そこに日本の優秀なクリエイターを集結させ、集合知としてのパワーを使った展示を世界中で行ってきた。そのテーマ設定において、彼は日本が西洋的スタンスでいかに凄いか、という主張ではなく、現在の先行き怪しい空気を先取りし、日本にはこんな物があるしこんな技も持っているといった、向こうとの「ギャップ」を提示し、西洋に問いかける。そして、そこにクリエイターの創造力を通すことで、自分は一歩ひいた立場を取りつつ、彼らの輝ける作品を利用して、自らの主張を伝える。そのキュレーション能力の高さは相当なものだ。「俺が凄い」というアピールではなく、集合知で示す手法が、なんともスマートな印象を受ける。展覧会とは大抵過去が展示されているが、彼の展示には未来がある、と西洋では評されたらしい。

見事だと思うところは、既存の日本イメージに頼らないところだ。現代美術の世界で成功した日本人作家の多くは「西洋が認識する過去の日本」を引用していることが多く、その評価のされ方への戦略が透けて見えるが、著者のスタンスは異なる。つまり今進化している最新の日本技術と脈々と繋がってきた日本の美意識を融合させ、世界で機能させることを前提にプレゼンテーションしているところだ。そういうことが出来たデザイナーは少なそうだ。

震災後、日本の転換が問われているが、気づいていた人は随分前から手を打っている。そしてその考え方は震災以前と以後で変化することもない。本書は、日本がどれだけ今後の世界を救うことができる美意識を持っているかを、それを忘れかけた日本人に向けて伝えようと懸命である。日本人は凄いらしい。中沢新一の「日本の大転換」も読んだが、抽象的部分が多く議論が絶えないようだ。しかしこちらは、かなり具体的であると同時に、いかに日本人が素晴らしいかを、細かな気配りが行き届いた明確な例をあげて示してくれる。読んでいると、未来が少しでも明るくなるようだった。

村上春樹の言葉癖が「やれやれ」であれば、原研哉のそれは「ぴしり」なのかもしれない。無駄な物を取払い、しっかり掃除をして有るべき物を有るべき場所に「ぴしり」と配置するだけで、生活は豊かになるそうだ。ただ何かを置く時に「ぴしり」と音はしない。しかし彼にとって物を配置するとはポンでもトンでもな く「ぴしり」なのだろう。それは将棋の最善手に近いと思われる。考え抜かれた戦略を、その駒の機能でもって「ぴしり」と決めなければいけない「点」が、それぞれの問題において在るということか。
関連記事
4 CommentsPosted in 制作

Previous: ロウソクの光

Next: white
4 Comments
By kammy+by+Toshio+Kamitani11 09, 2011 - URL [ edit ]

読みます これ

By 片平隆行11 10, 2011 - URLedit ]

私も読みました。震災後読みあさっている中で1番かもしれません、「さすが!」と思う箇所が多かった、地域主権みたいなものは今後の世の中のしくみでとても重要なことで、世界的な規模でみれば日本ができることを考えることを考えることで次が見えてくるかもしれません。震災後、起きている事象で「考えていた人」と「ない人」の差が歴然と見られて複雑な気持ちになりますが、自分にとっても気持ちのイイ一冊でした。では。

By 任田進一11 11, 2011 - URL [ edit ]

片平さん、コメントありがとうござます!
確かに「さすが!」の箇所は多かったです。動いている人はさっさと動いているし、どう動くべきかも見えているのでしょう。自分の役割を明確に理解している人は、迷いがない分無駄もなく、的確なメッセージを伝えられるのかもしれません。

By 新美幸子11 26, 2011 - URL [ edit ]

居合道。見えないものを観、断つ。

研ぎ澄まされ洗練された精神性。マイナスの美。
潔さ。

・・・・・

“世界で機能”とか“既存の日本のイメージに頼らない”がどういう意味なのか読んでいないしわからないけど、日本の精神性にねざした現在なり未来なりのデザインやヴィジョンは、どこまで派生しようとも美しいに違いない。

Leave a comment
管理者にだけ表示を許可する
0 Trackbacks
Top
プロフィール

任田進一

Author:任田進一
http://www.shinichitoda.com

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ