普通の文書

06 24, 2011
文書というものは内容が重要で情報が正しく伝われば問題ない、という考え方はわかるがあまり賛成できない。仕事上パワーポイントというソフトを使うことがあって、このソフトで作る文書はどうしても美しくならない。それは書体であれカラーリングであれ、綺麗に見せるという概念が欠落しており、効率優先が生み出した嫌なもののひとつだ。
文字と文字の間には適切な空間があり、そこに気を使うだけで文章が飛躍的に読みやすく美しくなる。ブログもしかり。やたら改行が多くてスカスカだったり、文字が突然大きくなったり色がめまぐるしく変わったりすると、素晴らしい内容がそこに潜んでいるのかもしれないが、ほとんど読む気がしなくなる。 見ていたくなる字面と、目を背けたくなる字面があるということだ。そんな思いが澱のように溜まっていた時、川上未映子と多和田葉子の対談を読んで、とても共感できた箇所があった。以下引用。

本をパッと開けたときに「ああいい顔だなあ」と思うんです。意味と同時かそれより少し先に活字が目に飛びこんでくる。立体的なレース模様みたいな感じで、レースの模様はそれ以上意味が出てこないけれど、文字は意味があるから二度おいしいみたいな。(川上未映子)
素早く意味だけを追って読書するには、文字を見ない方がいいんだけど、どうしても見えてしまう。私はそれを「文字のからだ」と呼んでいるんだけど、文字が絵として戻ってきて読書の邪魔をする。そういう読書の面白さというか、難しさというのは非常に重要なことです。(多和田葉子)

これは、活字としての漢字とひらがなのバランスやリズム感の重要さはもちろんのこと、その文章の個性や在り方を視覚的に判断する発想で新鮮だった。ただ綺麗にするのではなくさらに進んだ書き方がそこにはあるようだ。ちょっと意味が違うが、普通の文書を「いい顔」で書けたとしたら、それはたぶん「いいデザイン」かもしれない。

原 研哉が、もう細かい書体の差は必要ないと以前講演で言っていた。標準的な明朝体とゴシック体があれば、後は文字間と行間の完成度を上げることで、なんとかなる的な内容だったと思う。そういえば、その背後に写されていた彼の概念を説明する図がとても美しかった。どうというこのとない線画なのに、スッキリしっかりしているのだった。こういう差はほんの少しなのかもしれないが、 限りなく大きな差でもあるんだよなあと思った。 
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3 Comments
By kammy by toshio kamitani06 25, 2011 - URL [ edit ]

原さんの考えはスイスタイポグラフィのコンセプトですね
ストイックです
たとえばヘルムートシュミット
彼はバーゼルでエミールルーダーについて
彼を敬愛しいまだそれを実践しています
書体はユニバースだけ です
しかもヘルベチカが大嫌い(笑)
和文書体も多分中ゴシックだけだと思います
それを駆使してものすごいクオリティの
グラフィックを作るんですよね
そういえば色もモノクロが基本ですよね
シュミットはパッケージも手がけてるので
これもまたすごいなと思います
まあロゴがメインですけど
彼が冷凍食品とかデザインしたらどうかなと
思うところもありますけどね

原さんはそういうスイス派のストイックな部分は
向井周太郎氏の影響がかなり大きいと思いますが・・・

By 任田進一06 26, 2011 - URL [ edit ]

なるほど。そうなのですね。
制御されるがゆえの自由があるのでしょうか。

そして、確かに彼が、
冷凍食品とかデザインしたらどうなるのか、
そもそも重鎮の方々は、
どうしてその方面のデザインをしないのか、
気になるところではありますね。

By kammy by kamitani toshio06 28, 2011 - URLedit ]

私は田中一光さんのグラフィックに憧れてグラフィックの道に進んだのですが
結局一光さんは キリンライトと松下のビデオパッケージくらいしかやってないんですよね 単体のパッケージでは
ライトはキレイなデザインでしたけど結局売れてない
石岡瑛子さんのブレンディが最たるものですね
パッケージ大賞をとったけど直ぐにリニューアル
私はそれはそれで価値があると思っているので
いいのですが任田さんの言うように
重鎮の方は確かにあまり携わっておられないですよね
何故か?理由は定かではないですけど
1つは売れる売れないの結果に自分のグラフィックが
振り回されるのがいやなのかなあって思います
わかりませんが・・・
大阪の三木健さんはそんな中
デパ地下のマールブランシェをやられてて
とても売れてますよね
かなりグラフィックな世界ですけど
だから氏のことは尊敬してるんですよね

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