温泉

05 10, 2011
温泉の風情はどこにあるか、という問には様々な思いが交錯するだろうが、時が刻んだ古風な感じという意見は、そのひとつの定番的回答になるとは思う。
近所にある「深大寺温泉ゆかり」はそういう意味で、ザ温泉的な完成度がある。単にボロいだけなのかもしれないが、迷路のような廊下の床板は、ツルツルしつつ軋んでおり、秘密の温泉に来たぞという擬似的感情を盛り上げてくれる。本当は観光地の秘湯に行きたいところを、娘をカゴに乗っけて自転車で来ているわけだ、雰囲気を大切にしたいユーザーにそういうディティールはうれしい。もうひとつ近所に「新鷹の湯」という温泉もあり、こちらの方が圧倒的に近いのだが、ここはピカピカすぎて広すぎて料金も高めなので、どうも気が乗らない。しかし東京は広い、近所に温泉がふたつもあるのだ。どうりで家から駅まで歩けないわけだ。近くのマンションは、吉祥寺、三鷹、調布の3駅へのアクセスが可能!とかまるで便利であるかのごとく、その立地状況を広告でアピールしているが、要は最寄り駅というにはどこも遠すぎる事実を、都合良く言い換えただけだ。
話を戻す。温泉には休憩場所も重要。ここには先にゆで上がった者が相方を待つであろう部屋があって、狭いながら色々工夫されている。そこには小さなちゃぶ台や座布団が並んでおり、みんながちゃぶ台に向かい合うことで、他者との壁を擬似的に作っている。あきらかに定員オーバーなのに、そこには温泉特有のゆるい空気がしっかりと維持されていた。湯上がりの他人同士が、こんなにくっついている場所は珍しい。ただカップルには逆に好都合かもしれない。そういえばカップルが多かった。なんか極秘旅行的な感じで、スーパー銭湯にはない空気がそこにはあった。そんな中、娘がフルーツサンデーと格闘する姿を前にビールを飲んだ。
忘れていたが部屋着の存在も重要だ。嫌いな人には申し訳ないが、これはくつろげるし、非日常的演出も加わりポイントが高い。子供がこれを着ていると、いっちょまえな感じがするくせに、妙に小さいというズレがあって、かわいらしい。
娘は裸の男達がずらずら並んでいる脱衣所で、思ったことを正直に声にしており、「おっきいおなかだねえ」とか言うので、親として常に緊張感の維持が求められたが、大人の男はちっこい女の子の意見などに耳をかさないようだ。もくもくと大きなお腹をふいていた。きっとそれなりの事情を抱えつつ、いっときの癒しを求めて湯に浸かっていたのだろう。それにしても立派なお腹だった。
昼寝部屋もあって、ここで竹枕に頭をのっけて寝転がるのも気持ちよい。いびきをかいて完全に眠っている人もいて、絶妙なBGMになっていた。他人同士がなんの気兼ねもなく枕を並べられる空間は、この上ない平和を感じさせ難しいことだが、この空気が世界中で共有できますようにと、ある程度本気で思う。娘が眠くもないくせに寝るというので、つきあったが予想通り落ち着かないので帰宅する。そう何度も来れないが毎回確実に満足し、何かを取り戻したような気にしてくれる「温泉」は素晴らしい。
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