反復の意味

04 21, 2011
めったにないが「やばい僕は天才かもしれない」とか「ものすごい傑作が出来てしまった、どうしよう」といった自作の品や思いついたアイデアが、やたら輝やく瞬間がある。もちろんそのほとんどは、時が経つにつれ、化けの皮が剥がれ現実の厳しさに晒され風化する。あの感覚がなんのために訪れるのかわからない。ほとんどが役に立たない思い込みでしかない。ただ確かにああいう時間は、この仕事をしていてよかったとか、期間限定ゆえの幸福感には満ちている。しかし結局は繰り返すしかないのだ。強いモノは地道な行為からしか生まれない。小規模な奇跡が起こることを全否定する気はないが、そこに期待したところで、本当の幸福は訪れないように思う。

「ジョルジョ・モランディ 人と芸術」岡田温司(平凡社新書)
僕は好きだけれど、地味な作品の決定版というモランディの印象は不滅だろうと思われる。彼こそが繰り返す行為を徹底的に肯定し、生涯ほとんど同じような静物をモチーフにして、同じような作品を描き続けた。しかしよく言われるように、そこには深い差異が潜んでおり、何点か同時に観ることで、彼の魅力はさらに輝きを増す。4月開催を目指していた豊田市美術館のモランディ展が、震災の影響で中止になったことが実に残念だ。

僕は以前、雑草を撮影し続けることを自分に課し、それを作品にしていたことがある。
http://www.shinichitoda.com/sw/page.sw01.html
この時はほとんどそのことしか考えていなかったので、道端の何気ない雑草が何気なくなくなり、いちいち視界にそれらが入ってきた。その成長や色の差に目が反応してしまうのだ。当時撮影スポットをいくつか決めていて、ある時間になるとそこへ出かけ、ひとり興奮してシャッターを切っていた。その反復から生まれる視線力の増強は、日常を事件の日々に作り変えた。同じようなモノを見続けることで、見られるモノが同じではなくなることをそこで知った。平凡な日常を嫌がる主人公が、ここではないどこかを目指す物語は多いが、著者はキルケゴールを持ち出してこう言う。以下引用
デンマークの哲学者は力強く宣言する。「反復ということがなければ、人生とはいったい何であろうか」、と。「反復―これこそが現実であり、生存の厳粛な事実なのだ」。それゆえ「反復をえらんだ者のみが、ほんとうに生きるのである」。また、「反復は、けっして飽きのこない、いとしい女房である。というのは、飽きるのは、新しいものにだけ飽きるのである。古いものには、けっして飽きがこない。そして、そのようなものが目のまえにあってくれると、ひとは幸福になる」のだ、とも。さらに畳み掛けるかのように、力強く言い切る。
 
 人生は反復であり、反復こそ人生の美しさであることを理解しない者は、みずから首をつったもおなじで、くたばるだけの値うちしかないのである。

もちろん、先が見えないことを無理に続ける必要はないし、反復を避けることが、その人によい結果を生み出すこともあるだろう。ただ、ああいう大震災が起きると人の力があまりにもろいことを思い知る。そういう最後の時はいつ訪れるかわからない。よく言われるけれど、明日死ぬとしても今日と同じことを繰り返そうと考えるような、大切な日常を持つ人が、誰よりも力強いことを今更ながら思う。きっとモランディはその状況を迎えたとしても、相変わらず同じようなモチーフに向かって絵筆を取るに違いない。
関連記事
5 CommentsPosted in 読書

Previous:

Next: 妖怪
5 Comments
By kammy by kamitani toshio04 21, 2011 - URLedit ]

今年か去年だったかなあ
京都国立近代美術館で見た展覧会(何の展覧会だったか思い出せない)で1枚の絵に釘づけになりました
テーブルの上におかれた花瓶やカップやソーサー・・・
音声ガイドが「それぞれの位置や影の位置が絶妙に構成されていて・・・」
久しく絵画を観て感動した瞬間でした
(最近 音声ガイドをいつも聞いて廻ります)
恥ずかしながらその時初めて知ったのがジョルジョ・モランディでした
任田さんのこのブログを見て検索したら「あっ!あの静物画の・・」

ジョルジョ・モランディ展が企画されていたんですね
知らなかったです

任田さんの雑草の写真 いいですね とても

力強いモランディの言葉は 何となくですけど 理解できます

By 任田進一04 22, 2011 - URL [ edit ]

そうでしたか。
実は僕はまだ本物を観ていません。
ちょっと、羨ましいです。
埃が重要なようです。

By kammy by kamitani toshio04 28, 2011 - URLedit ]

アマゾンで注文したモランディの本(新書)が届きました
GWにゆっくりと読もうと思います
ついでに作品集も出てたので注文しましたが
それはまだ着いてません

埃ですか? 
音声ガイドでは
そういう話はありませんでしたが
それにしても面白い画家ですね

By 任田進一04 29, 2011 - URL [ edit ]

描かれた壜達には、
うっすらと埃が積もっていることが、
モランディにとっては重要だったようです。
細かなこだわりが伺えるエピソードですね。

By kammy by kamitani toshio04 30, 2011 - URLedit ]

モランディの埃の話 読みました
面白い方ですね しかし この人
描くべき明確なことがあるように見えるし
他の方が描く必要がないと感じてることを拾っているようにも見えます

モランディの作品集が届きました
油絵 水彩画(これも好きでした) エッチング ドローイングと分かれての紹介
先日京都で観たモランディの作品が掲載されてなくてちょっと残念でした
それは もっとリアルな絵画でもあり
瓶やカップが作る影が後ろの物と微妙にからんでる作品なんです
もう一度観たいなと思っていますが
新書にも掲載されていませんでしたね
また分かったらお知らせします

それにしてもモランディの展覧会が開催予定から中止になったとは
とても残念ですね

Leave a comment
管理者にだけ表示を許可する
0 Trackbacks
Top
プロフィール

任田進一

Author:任田進一
http://www.shinichitoda.com

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ