抵抗

04 12, 2011
僕は不登校とか引きこもりではなかったけれど、許されるなら学校には行きたくなかった。クラスに生まれる「グループ」の存在は疎ましかったし、仲間はずれになる時間は苦痛だった。ゆるくではあるが、学校は苦手だった。
しかし、この物語の舞台である全寮制の学校には、そういう生徒は見当たらない。陰湿ないじめや教師への反抗といった一般的な問題も無さそうに見える。ただ、もっと大きな問題があるらしいことだけ匂わされ、それが徐々に明らかにされる。「事態の全貌が明らかになった時、読者は血も凍るような恐怖感を覚えることになる。魂の奥底にまで届くような衝撃がある」と茂木健一郎は評した。

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ(早川書房)
勘のいい人は、ある程度読んだ時点でこの物語の秘密には気付いてしまうと思う。そしてそれはたぶん外れない。しかしこのテーマが見えたところで、この物語が読めてしまうわけではない。逆にその秘密は所々見え隠れするだけで、茂木氏が言う程その全貌が劇的に晒されるわけでもない。その状況下にある、登場人物の人生観を通して感じ取るしかない。そして僕は、彼らの妙に悟ったように見受けられる「諦め」の境地がどうも腑に落ちなかった。もっと抵抗するキャラがいてもよさそうなのに、一様に彼らはその運命を受諾する。そういう風に教育されたから、ということなのかもしれないが、教育こそが自分で考える必要性を自覚させるわけであって、良い子に丸め込むためになされるものではない、と思いたい。映画化もされるようで、ネットでその予告編を見た。実に理想的な美しい映像の中、若者達が青春を謳歌していた。ただ彼らは自分の未来を知っていて、それをしているのだと思うと、どれだけ従順な人達なのだろうと思う。
しかし、著者のインタビューを読むと、これはあえてそうしているようだ。普通に「逃亡」という要素を入れることも考えたらしいが、彼はそういうことを書きたかったのではなく、誰しもが現実を受け入れつつ「消極的」に生きているという事実に注目したかったらしい。著者の思いであれば仕方ない。非常に抑制された文体からもその意図は理解できる。以下、カズオ・イシグロインタビューby大野和基より引用

「人間が自分たちに与えられた運命をどれほど受け入れてしまうか、ということです。こういう極端なケースを例に挙げましたが、歴史をみても、いろいろな国の市民はずっとありとあらゆることを受け入れてきたのです。自分や家族に対する、ぞっとするような艱難辛苦を受け入れてきました。なぜなら、そうした方がもっと大きな意義にかなうだろうと思っているからです。そのような極端な状況にいなくても、人はどれほど自分のことについて消極的か、そういうことに私は興味をそそられます。自分の仕事、地位を人は受け入れているのです。そこから脱出しようとしません。実際のところ、自分たちの小さな仕事をうまくやり遂げたり、小さな役割を非常にうまく果たしたりすることで、尊厳を得ようとします。時にはこれはとても悲しく、悲劇的になることがあります。時にはそれが、テロリズムや勇気の源になることがありますが、私にとっては、その世界観の方がはるかに興味をそそります。」 
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By kammy by kamitani toshio04 14, 2011 - URLedit ]

never let me go 「わたしを離さないで」

村上春樹さんの本を狂うように読んでいたさなか
彼が同世代の作家で新作がでると必ず読むという
作家をあげていた中に カズオイシグロという名前を見つけました
村上さんが好きな作家だから面白いに違いないとリストを見ると
まずタイトルがどれも魅力的でした
結局 代表作ということで
好きなジャズのナンバーと同じこの書籍を手にしました
素晴しい内容と瑞々しい文章
読み終えた頃に映画化を知りました
今書店で宣伝のためにその映像が流れていますね
とても美しい映像です 光りがとても綺麗
基本的には原作でよかったら 
なかなかそれ以上には感動しない映画ですが
この映像は 写真の勉強のためにも
ちょっと観ないといけないかなって思っています

なおカズオイシグロ著「わたしを離さないで」に感動したので
わたしの万年筆ブログにもアップしています
ご覧ください

http://blogs.yahoo.co.jp/kamitanidesign/11618036.html

著者と同じイギリス製のなんとも不思議で美しい万年筆について
書いています

By 任田進一04 15, 2011 - URL [ edit ]

kammyさん。
お勧め頂き、どうもありがとうございました。
興味深く読ませて頂きました。
また面白い本がありましたら是非教えて下さい。
そして、
Conway Stewart Tiffany 初めて知りました。
不思議な素材があるのですね。なんとも魅力的です。
いつか実物を見たいです。
以前展示をした、あるギャラリーの壁が土で出来ていて、
釘の穴とか自然に埋まってしまうんですよと
オーナーさんが言っていたことを思い出しました。

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