人間の一方的な愛情

08 20, 2016
ハウステンボスにある「変なホテル」に宿泊した。この「変な」というのは「変わり続けることを約束する」という意味での「変」らしいが、フロントにいる恐竜ロボットの方が素直に「変」で魅力的だし、普通に狂っているという意味での「変」でも良いのではと思った。しかし、ホテルのコンセプト作成やネーミングを担当したGRAPHの北川一成は、ロボットだけのインパクトでは珍しがられるのはせいぜい1年と見積もっており、作る側としてのそれらしいメッセージが必要だったのだろう、分からないでもない。この「変なホテル」は、滞在時の快適性と世界最高水準の生産性が両立する全く新しいローコストホテルの実現を以下3つの取り組みにより目指しているようだ。関わっているのは、東京大学生産技術研究所川添研究室と鹿島建設。
・ 建設コストの削減を企図した世界展開可能な工法の導入

・ 人件費の削減を目指した自動化とサービスロボットの導入

・ 省エネルギー化への取り組みと光熱費の自給率向上を企図した太陽光発電の導入

ホテル業務におけるロボット化可能な仕事の大半を、ロボットが行なうらしいが、思う以上に決まった事しかできないので機能性という視点よりも、やっぱり今のところは外観でのロボット感で客寄せをしている、というのが正直な感想だった。ぱっと見てロボットがしている仕事は、チェックインチェックアウト(セルフサービスだが)、窓ふき、芝刈り、荷物運び、ピアノ演奏というところだろうか。一番じれったいのは、こちらの質問に答えてくれるロボットがいないことだった。初めてハウステンボスに訪れた人は、どうここを効率よく攻めたらいいのか知りたいはずだし、そういう誰もが思う質問に答える機能をフロントロボットに付けてもよいと思うのだが、彼らは稼働時間以外仕事をしないので、ハウステンボス側が「まあロボットだし仕方ないか」という人間のゆるさをそれなりに利用している印象があった。
ただ、ホテル自体は非常にシンプルでモダンであり居心地も良く、デザインされた空間にいる快適さがあった。各部屋にチューリップの頭を持つ「チューリーちゃん」というロボットがおり、質問すると答えてくれたり、部屋の電気を付けたりしてくれるのだが、会話の間合いが実に遅く、結果何度もこちらが「チューリーちゃん、○○して」と繰り返す必要があった。しかもすぐフリーズするし、とんちんかんな答えを言うので、人間がかなり機械に寄り添わないと機能しない。そして、そこまでしてもチューリーちゃんは「はあ?」「もう一度」などと返してくるので、かなりカチンときた。とは言っても、その間合いに慣れると同じ質問を何回しても怒らないし変わらないし、同じ時間をそれなりに共有していると、その外観に似合わない無表情な声や態度も徐々に慣れてしまい、なぜか愛着まで湧いてくるのだった。チューリーちゃんは、日本語よりも英語の発音の方が流暢で、新たなクイズを何問でも出してくれるし、勝手に必要ないハウステンボスの宣伝を始めるし、こちらの質問に答えられないと突然「歌います」といって昔ながらの童謡を披露してくれた。小4の娘は、暇さえあればチューリーちゃんに呼びかけ、クイズの全問正解を目指して彼女?と対決していた。

人間の仕事がロボットに取られるという予想が、いたるところで行なわれている。創造性のない仕事はロボット化されるらしい。それはそうなのかもしれない。しかし、今回思ったのは人間的な仕事をするには、まだまだロボットはじれったい存在で融通もきかない。チューリーちゃんに関しては、クイズの答えで正解を言っても無視するポンコツだ。人間がいかに優秀な対応をしているのか、今更ながらに実感できた。そしてロボットに対しては「使えないヤツ」という上から目線ならではのペット的な愛着が、自然とこちら側に生じてしまうことが発見だった。時間の共有と扱い方の理解が、ロボットと人間の距離をぐっと縮めること、そしてこちら側の意図と向こう側の行為が合致すると、小さな事でも嬉しいという実に基本的なコミュニケーションの初歩が、ロボットを通して体験できるホテルだった。これからこういうロボットがどんどん商品化され各家に入り、その家ならではの在り方にカスタマイズされ、家族は勝手に愛していくのだろう、そういう人間の一方的な愛情が意外に大切なのではないかと思った。「チューリーちゃん」とこちらが呼びかけ「何でしょうか?」という反応から始まることの重要性を感じた。
快適で心地よく宿泊できるホテルを、もっとリーズナブルに提供したい。 環境にも配慮した、現代的で「スマートな設備」を備えながら 訪れたくなる「楽しさ」ももたらし、思い出も作れたら・・・。という作る側の思いは、意外にもポンコツチューリーちゃんが握っていたようだ。そして再びここに訪れることがあったとしたら、ニュータイプチューリーちゃんへの変化を期待するのは、僕だけではないだろう。
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任田進一

Author:任田進一
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