作品を取り巻く空間の進化

11 24, 2015
僕はラフな展示よりも、作り込まれた展示の方が好きである。例えば壁に作品とは関係ない穴があったりとか、コンセプトや作品と関係ないノイズが多大に含まれる空間がどうにも受け入れがたい。そういうノイズを上手く取り込んで、作品と呼応させるような工夫があれば問題ないのだが、そうでないと意識が集中できず、観るべきものではない何かばかりが目に入ってしまい、観るという意識がずいぶん落ちてしまう。映画館で横にやたらノイズを発生させる人がいたら映画に集中できないのと同じだ。

「杉本博司 趣味と芸術-味占郷/今昔三部作」千葉市美術館
間違いなく展示空間の作り込みでは世界トップレベルの人だと思う。作品の魅力を最大限引き出すにはどうしたらいいのかを知り尽くしている。今回は開館20周年記念も兼ねた千葉市美術館で「海景」「劇場」「ジオラマ」それぞれの初期作品と最新作が並ぶ構成になっていた。入ってすぐに緩い曲面状の壁に「海景」が並んでいた。フレームは鉛で統一されており、抑えめの照明の中鈍く光っている。写真の展示でこれ以上に空間を作り込み、神経を尖らせるのは困難だろうと思わせる完成度で、これ以上何を凝ることができるのか、もう僕にはわからなかった。そういう意味では完璧というより、この空間ではここまでが限度なのだろう。
作品自体に関しては、もう何度観たのか忘れた程の「3部作」なので(最新作の「劇場」は縦位置というのがウリらしいが、やっていることは同じ)なんというかスタローンのロッキー、シュワルツェネッガーのターミネーター、ブルースのダイハードみたいな感じで、何もかもが一流でコストも莫大なのだがお約束の流れの範疇なので、僕の関心は言わば、その周りの空間構成やプレゼンテーション形式にあった。
そういう客層のためなのか、同じ企画のもうひとつ「趣味と芸術-味占郷」は全く趣向が異なる展示だった。各界の著名人をもてなす際にしつらえた掛け軸と置物で構成した床飾りの再現が27セット並んでいる。本人としては明らかにこちらがメインなのかもしれない。しかしそれは一般人からすると、いくら婦人画報の企画とはいえ、有名人との華々しい交流と神々しいコレクションの披露欲求を合わせただけに思えた。器を映えさせるために、須田悦弘の作品が使われているのだが、これも観ていて苦い気分が消えない。もちろんこちらの展示空間も贅沢でそれぞれの骨董品がほのかなスポットに照らされ、その価値を助長しており見入ってしまう。そうと知らされていなかったら、こんなにしげしげとは観ない。しかし、こちらも今ひとつ盛り上がらない。

記憶が曖昧だが、初めて杉本の「海景」を観たのは1991年頃の横浜SOGOでの「現代美術の神話」展だった。イリアナ・ソナベンドのコレクションで構成されたその展覧会は、彼女のギャラリーに所属したアーティストの作品で構成されており、正直その中での「海景」はあまりに地味で、展示も2〜3点壁に設置されたそっけないもので、ほとんど記憶に残らなかった。しかしその後の1995年、東京都現代美術館での「日本の現代美術 1985-1995」展は違った。今の様な巨大プリント+大層な額装ではなく、全紙サイズで普通の黒いフレームにマウントされたものだったが、それが天井までグレーに染まった壁にずらりと並ぶシーンは壮観であった。写真の中の白と黒で作られた水平線のラインの連結が劇的に眩しくて、いたく動揺した。こんな展示があるのかと思い知った。作品とそれを取り巻く空間がいかに重要かということを、たぶん僕はこれで学んだ。

展示空間というのは限界がある。今回の千葉市美術館でもそれは同じだ。ブレゲンツ美術館がどこにでもあるわけではない。世界中の美術館で展示をしたからこそ、杉本博司は建築に手を出し、建物から作るようになったのだ。そして更なる作品を取り巻く空間の進化を目指しているのだろう。2016年には渾身の力作が小田原に完成するらしい。そのイメージ画像を見ただけで、彼の美意識の炸裂が見て取れる。行ってみたい。
http://www.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303448204579336213293444896
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画像:同サイトのスクリーンショット
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作品を掛けるだけで、完璧に仕上がったという空間(ブレゲンツ美術館)
画像:http://blogs.wsj.com/scene/2014/01/23/hiroshi-sugimoto-designs-his-own-museum-in-japan/
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a wave

11 20, 2015
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float

11 08, 2015
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安定と変化

11 05, 2015
しばらく続けていた作業が、約2ヶ月経ってようやく安定してきた。この安定というのは制作物が一定の質を保ち始めたということで、この一定の質が見えてくると、作品自体のトーンみたいなものが生まれ始めたということになる。今まで誰のものなのか分からず有耶無耶としていた雰囲気がようやく自分の作品として定着してきたということか。そして合わせて生活ペースがこれによって変化し、日々意識する関係物が変化し、見るもの見えるものが変化し、作業部屋に積まれていた材木等も一気に処分されその空間が一変した。何かが安定してくると、周囲は変化する。とすれば逆に周囲が安定すると、何かが不安定になるということなのだろう。安定と変化の関係を思う。どちらかを守り過ぎても、壊し過ぎてもバランスが崩れてしまう。今この空間は妙に気持ちがいい、そしてこのまま生活パターンや意識や視点や空間が安定することで、制作物が安定し過ぎて再び変化する時が来て、どろどろと入り乱れることになったりするのだ。そういう絡み合いの中で、生きているのだと思う。ただ、あるパターンに自分の行動が定着される感じは、それが不快でなければ、行為への集中を考えると理想的ではある。しばらくこのペースを維持したいと思う。
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任田進一

Author:任田進一
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